私は長年、自宅でピアノを時間や周囲を気にせずに存分に弾きたいという夢を持っていました。しかし、閑静な住宅街にある木造二階建ての我が家では、窓を閉め切っていてもピアノの重低音や高音が外に漏れ出し、近隣への迷惑を考えると深夜や早朝に練習することは到底不可能でした。消音機能付きの電子ピアノで代用していた時期もありましたが、やはり本物のグランドピアノが持つ繊細なタッチと豊かな響きを肌で感じたいという欲求は抑えられませんでした。そこで一念発起し、長年物置代わりになっていた六畳の一室を、本格的な防音室へと作り替えるリフォームを決意したのです。業者との打ち合わせで最も重視したのは、単に音を外に出さない遮音性能だけでなく、室内での音の響き、すなわち音場も美しく整えるという点でした。あまりに吸音が強すぎると音がデッドになり、弾いていても心地よくありません。逆に反射が強すぎると耳が疲れてしまいます。工事は想像以上に本格的な工程となりました。既存の壁や床を一度スケルトン状態にし、床、壁、天井のすべてに振動を遮断する特殊なゴム製の防振材を設置しました。その上に遮音パネルを張り、さらに吸音ボードを重ねていくボックスインボックス工法という、部屋の中にもう一つの部屋を作るような手法が採用されました。特に驚いたのは防音ドアの重厚さです。重い鋼鉄製のドアが設置され、ドアを閉めた瞬間に外界の音が完全に消えるその密閉感には圧倒されました。また、グランドピアノの重量に耐えられるよう、床の補強も丁寧に行われました。工事期間中の二週間は、振動や騒音、職人の出入りでそれなりに大変でしたが、完成した部屋に足を踏み入れた瞬間の静寂は、何物にも代えがたい感動がありました。まるで外界から遮断された宇宙船のシェルターのような、不思議な安心感に包まれたのです。実際にピアノを運び込み、深夜に思い切りペダルを踏んで演奏してみましたが、家族に外で確認してもらったところ、かすかな振動すら感じられないほど完璧な防音性能でした。吸音パネルの配置を細かく調整してもらったおかげで、低音から高音までが濁ることなくクリアに聞こえ、自分の奏でる音楽にこれまでにないほど没頭できるようになりました。リフォーム費用は決して安くはありませんでしたが、自分の人生の質を支える趣味を最高の環境で楽しめるようになったことで、心からの幸福感を得ています。今ではこの防音室が、私にとって家の中で最も誇らしく、そして最も安らげる神聖な場所となりました。